最近、園子温監督の勢いが止まりません。5月に公開された『新宿スワン』は興行成績1位に躍りだし、この『ラブ&ピース』に続いては7月11日に『リアル鬼ごっこ』が公開され、9月にも『みんな!エスパーだよ!』が公開予定という多作ぶりなのですから。しかも、すべてテイストやジャンルの異なるエンターテイメント作品です。

そんな中で、個人的にもっとも気に入っているのがこの『ラブ&ピース』です。原作ものでない完全オリジナル作品。しかも殺人も犯罪もない愛のファンタジーなのです。とは言え、あまりにも多くの要素が含まれている上に、ネタバレの危険があるので、なかなか語りにくい作品でもあるのですが…。

物語は大きく分けてふたつのパートで成り立っています。まずは楽器の部品会社で働いている、うだつの上がらないサラリーマン、鈴木良一(長谷川博己)のお話。元はロックミュージシャンを目指していたが挫折、会社の中で居場所はなく、周囲に馬鹿にされる毎日。同僚の寺島裕子(麻生久美子)に想いを寄せていますが、小心者すぎて告白する勇気もありません。そんな良一はデパートの屋上で一匹のミドリガメと出会い、ピカドンと名付けて飼い始めたことで生きる希望を取り戻していきます。しかし、ピカドンを会社に連れて行ったところを発見され、同僚たちから揶揄された彼は、発作的にピカドンを捨ててしまうのです…。

下水道に捨てられたピカドンが流れ着いたのは不思議な地下空間でした。そこには謎の老人(西田敏行)が、言葉を得たおもちゃや動物たちと暮らしていたのです。持ち主に飽きられたり、大きくなりすぎて育てられなくなったおもちゃやペットたち…。やがてこのふたつのエピソードは、ロックスターに成り上がった良一や東京オリンピックに舞い上がる人々を巻き込み、東京を揺るがす大騒動に発展していきます。

この脚本は、いまから25年前、まだ園監督が無名の若者だった頃に書き下ろされ、それがほぼそのまま使用されています。当時のバブル景気が東京オリンピックに向けての浮ついた気分に変えられたぐらいで、セリフもほぼそのままだそうですから、いかに完成度の高い脚本だったかがわかります。主人公が歌う歌の作詞作曲も園監督自身によるもの。「俺の魂の集大成」と監督が語るのもむべなるかな。

まさに奇想天外、まったく先読みのできないストーリー展開で、さまざまなテーマが内包されています。観る人によっては「捨てられた夢の復権を描くファンタジー」であり「芸能界の内幕を描くコメディ」であり「世の中で浮上できずにあがく人々の悪戦苦闘を描くもの」であり「昔懐かしい特撮映画」でもあります。そして何より「愛」についての映画でもあるのです。

園監督の演出も、長谷川博己の演技も「過剰」の一言で、小心者で被害妄想の気もある駄目サラリーマンが人気ロックスターに成り上がり、次第に慢心していく姿をコミカルに(と言うのも生ぬるいほどド派手に)描ききっています。冴えないOL役の麻生久美子にも唖然。そして、ほんのワンシーンやセリフのない役にまで、あっと驚く豪華スターを(おもちゃや動物役の声の出演にも)配しているのです。冒頭の討論番組のシーンからして「こりゃ何だ?」という展開ですから。ともかく徹頭徹尾、園ワールドが展開する作品。しかし、さんざん笑わせられた後、クライマックスでRCサクセションの名曲「スローバラード」が流れるあたりでは思わず感涙…。そう言えば、忌野清志郎の墓石にも「Love&Peace」と刻んであるのでした。

ピカドン役のミドリガメ以外にも、地下世界のシーンで数多くの動物たちが登場しますが、無理矢理に動かすようなことはせず、それらが自然な動きをするまでひたすら待ち続けた、というエピソードからも監督以下スタッフの優しさが伝わってくる映画です。


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